大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和39年(行ツ)79号 判決 1965年11月19日

当事者

上告人 天野正則

被上告人 山梨県知事 天野久

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨は、要するに、禁猟区設定行為が行政事件訴訟法三条にいう行政庁の処分にあたると主張し、そのことを前提として、本件訴を却下した原判決は、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(昭和三七年法律第一四〇号による改正前のもの。)一条四項、九条、一一条、二一条の解釈適用を誤り、憲法一四条に違背する、という。

しかし、禁猟区設定行為が行政事件訴訟法三条にいう行政庁の処分にあたらないとした原審の判断は、相当であって所論法令違背の違法はなく、違憲の論旨もその前提を欠くに帰し、論旨は、排斥を免かれない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告人の上告理由

第一点原判決は「本件農地における鳥獣の捕獲を禁止され有害鳥獣の駆除のため重要な手段に制限を受けるのであるから本件禁猟区設定行為の無効確認を得るときはこのような手段を回復することができる訳である。然しながら有害鳥獣の捕獲は単に法律上の放任行為であるに止まりそれ自身は法律上保護さるべき法益ないし権利ということはできず従って控訴人が本訴によって直接回復しようとする利益も右以上に出でないものといわなければならない」と判決しました。

然しながら普通の場合は有害鳥獣の捕獲は放任行為であるが一旦狩猟法(以下法と言う)第九条の適用により禁猟区に設定されると同時に法律関連により法第十一条で「禁猟区の場所に於ては鳥獣を捕獲することを得す」とされ、これに違反すると法第二十一条で一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処す」と規定のもとに禁猟区内の鳥獣の捕獲を禁ずるのであるから本件禁猟区設定によって同区内の鳥獣を捕獲することはできないので本件禁猟区設定によって鳥獣は法律上保護さるべき法益ないし権利を与へられたのであるから従って上告人は本訴によって直接回復する利益を有するものであります。

よって前示判決は法第九条法第十一条法第二十一条の関連を適用しない判決であって法律違背があります。

第二点原判決は「本件禁猟区の設定によって鳥獣が蕃殖しそのため控訴人所有の本件農地が荒されるとしてもこれは本件禁猟区設定そのものの効果ではなく間接なものと解する外はない結局控訴人が本件禁猟区設定行為の無効確認判決によって受ける利益は右に述べたような間接の関係に過ぎないものといわなければならない、してみれば控訴は本件禁猟区設定行為の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有しないものといわざるを得ない」と判決しました。

然しながら「鳥獣は害せられない限り餌を喰って生存も蕃殖もするものであって鳥獣から餌を喰うことを切りとることはできないことで、これを切りとると死体の鳥獣となる」これは「全世界に通ずる自然の理」であります。

又法第九条は「鳥獣の保護蕃殖の為禁猟区を設くることを得」とあるを以て禁猟区設定そのものの効果は「鳥獣の保護蕃殖する」ことにありますので鳥獣が安住しただけでなく蕃殖することまでが禁猟区設定の効果でありますから

その効果は

設定によって法第九条法第十一条法第二十一条により鳥獣が安住すること

設定によって鳥獣が蕃殖すること即ち「餌を喰って蕃殖する鳥獣」が蕃殖すること(死体の鳥獣でないから餌を喰って蕃殖する)即ち餌を「喰って蕃殖する鳥獣」が餌を喰って蕃殖すること

の二つが禁猟区設定の効果であります。

故に鳥獣が安住のもとに餌を喰って蕃殖することは禁猟区設定そのものの効果でありますから鳥獣が蕃殖のため餌を喰うことも禁猟区設定そのものの効果であります。

そこで法第九条で本件禁猟区を設定されたので法第九条法第十一条法第二十一条の関連により同区内による鳥獣を捕獲することはできないので本件禁猟区設定によって鳥獣が上告人所有の本件農地(農作物を含む)に安住して農作物を餌として喰い荒して蕃殖するのであるから鳥獣が蕃殖のため農作物を喰い荒すことは本件禁猟区設定そのものの効果であって直接のものであるから上告人は本件禁猟区設定無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するものであります。

よって前示判決は法第九条の解釈を適用せず又法第九条法第十一条法第二十一条の関連を適用せず及び全世界に通ずる自然の理を適用しない判決であって法律違背があります。又判決は自然の理に違反します。

第三点 原判決は「控訴人は本件禁猟区設定行為の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有しないものといわざるを得ない」と判決しました。

然しながら他都道府県に於て法第一条により禁猟区に設定された所有者は同条第四項により公聴会開催のもとに利害関係人として学識経験者とともに意見を聴せられた即ち学識経験者が学問上専門の知識を以て公共福祉のためこの区域この期間は真に鳥獣が蕃殖するに必要であるとまぎれもない意見を言うのでこれを聞けば利害関係人(所有者)は農作物を喰はれることを承知の上で設定に承諾の意見を言うので所有者は所有権を全うされたにもかかわらず上告人は法第九条で設定されたので上告人に無断で上告人の所有農地を本件禁猟区に設定されたのであるから公聴会開催のもとに設定された所有者に比すれば上告人は「法の下に平等」を受けられないものであります。国家は憲法第十四条をして「すべて国民は法の下に平等である」と保障しておりますので本件禁猟区設定は憲法第十四条に違反して設定されたものでありますから本件禁猟区設定は無効であるので上告人は本件禁猟区設定無効確認を求むるにつき法律上の利益を有するものであります。

よって前示判決は法第一条第四項法第九条及び憲法第十四条を適用しない判決であって法律違背があります。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例